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 やってきた。

 やってきましたよ、今日というこの日が。

 俺は子供か、と自分で突っ込みたくなるほど今日が待ち遠しくて昨日は満足に眠れなかった。

 部屋が今までと変わった所為というのもある。

 色ものとか全く気にしていなかったシンプル且つ生活感丸出しの部屋が、

 少しピンクに色づき、小物は綺麗に棚に飾られ、その中や上に熊が所々にいて顔を覗かせている。

 ああ、もちろんぬいぐるみのクマだ。

 俺が誕生日にプレゼントしたものが棚の上に大事そうに置かれている。

 そいつがまあ寝ている俺を見ているような気がして…というのが睡眠不足の一因であることは否めない、が。

 やはり一番の原因は今日というこの日なのだ。

 

 

 

 

 

 

「happy LIFE」

 

 

 

 

 

 

 眠たい目をこすり、せっせと布団を片付けてその時を待つ。

 インターホンが鳴ればすぐに飛び出していけるように、体育座りをした。

 準備は万端だ。

 ドアを開けたらなんて言ってやろう。

 やっぱここはシンプルに「よく来たな」だろうか。

 いやいやそれでは今までと何も変わらないな。

 「おかえり」、なんてどうだろうか?

 ……しっくりこない気がする。

 ならどうすればいい?

 あいつは結構、場の雰囲気とかロマンチックさを大事にするから

 こういう記念すべき日に俺がどうにかして思い出に残るものにしてやらないとな。

 ………よし。

 

「男なら黙って抱きしめる、よし、それでいい」

「いきなり抱きつかれても困るぞ」

「じゃあどうすれば……って、ん?」

 

 

 恐る恐る声のする方を振り返ると、そこには(妄想の中では)インターホンを鳴らして微笑んでくれる筈の恋人、坂上智代の姿があった。

「智代…いつからそこに?」

「お前が体育座りをしてうんうん唸っていた頃にはもう玄関にいたぞ」

「インターホン鳴らせよ……」

「合鍵があるのに何故鳴らす必要がある?そもそも鍵をくれたのはお前じゃないか」

「ああ…そうだったな」

 涙目になる俺、乙。

 何もかも台無しな上に、男としての必要な何かを今、少し失った気がする。

 そんな俺を後目に、智代は俺の隣に座って、小さくため息のようなものを吐いた。

「不安か?」

 俺は思わず聞いてしまっていた。

 今日から始まるこれは、きっと楽しいだけじゃなく辛いことも待っている。

 それを想像して智代はため息を吐いたんだと思った。

 だが智代はそんな俺の考えとは裏腹に微笑んだ。

「ああ、今のは違うぞ。ホッとしたからつい出てしまったんだ。
ようやく、この日が来たんだな、って」

 昨夜はなかなか落ち着かなくて、寝付けなかったんだぞ?とくすぐったそうに笑いながら智代は言った。

「俺もだよ」

 そう言って手を取ると、智代は「やっぱり私たちは気が合うな」と言って肩に頭を乗せてきた。

 少し、沈黙の時間が流れる。

 でも、それが心地いい。

 その存在を感じるために頭に手をやってそっと、その柔らかくサラサラな髪を撫でた。

 

 

 

 

 改めて辺りを見回す。

 今まで俺が使っていた部屋は、見事に智代色に染まりつつあった。

 半年程費やしてようやく、ここまで来た。

「色々なこと、あったな……」

 その半年間を不意に思い出して、声に出すと。

 そうだな……と感慨にふけるような声が左肩の方から聞こえた。

「両親に挨拶したり、直幸さんのところへ行ったり…必死だったな、私たち」

「それくらい大切なことだからな」

 本当に、色々あった。

 智代との仲を認めてもらうために何度も智代の家に行ってご両親に頭を下げた。

 相手が進学校で不良と呼ばれていたと聞いていたらしく、最初の態度は冷たくて、

 追い返されるごとに昔の自分を恨んだ。

 まあ、今では酒を一緒に飲む仲だけどな。

 

 あとは、親父のこと。

 それをどうするかで智代と喧嘩になって、顔を合わせない時間が1週間くらいあったな。

 結局、お互いの必要さが身にしみるように分かって、親父のことも考え直したんだっけ。

 本当の親子というにはまだぎこちなかったけど、それでも家族になれた気がする。

 これは、智代のおかげだ。

「でもま、一番大変だったのは引っ越しのための買い物だな」

「そうか?私は楽しかったが」

 あれは、男の俺には辛いんだぜ、智代。

 雑貨店やらファンシーショップやら、普段男が寄り付かないような所にまで買い物に行って精神的にやられて、部屋でぐったりしていた。

 智代はすごく楽しそうだったが、俺にはかなり堪えた……。

 

 

 

 

 まあ、そんなこんながあって今日というこの日がある。

 『同棲一日目』。

 智代は今日から、この部屋から大学に通ってここへ帰ってきてここで寝泊まりする。

 智代のご両親に相談したら、握りこぶしを震わせた手をテーブルの下に隠しながら、笑顔で見送られた。あれはかなりの迫力だった……。

「これからも色んなことあるけどさ…二人で頑張っていこうな。」

「うん。今日はその第一歩だな。」

「ああ」

 そうして、二人笑いあう。

 だが、智代はすぐに顔を俯かせて、何やらぼそぼそと呟いた。

「あん?」

「だ…らな?その…」

「いや、よく聞こえないんだが」

 あまりにも自信なさげにぼそぼそと呟くものだから、その顔を両手で挟んで上を向かせると。

 顔を赤くして涙目になった智代が。

 

「だ、抱きしめてくれるんじゃ…なかったのか…?」

 

 と言ってそっぽを向いた。

 ……ああ、そうですか、そうですか。

 岡崎君はずっと待ってたんだよこの時を。

 神様はやっぱりいるんだな。

 いや、いっそのこともう智代が神様でいいや。

「無論、有無を言わさず抱きしめる」

 俺も頬が火照るのを感じながらぎゅっと智代を抱きしめた。

 心地よい温もりが胸の中にすっぽりと収まる。

 馬鹿、という声が聞こえたような気もするが、それも然り。

 始まりの月。

 桜の花びらが俺たちのこれからを激励するかのように、たくさん散って風に流されていく。

 そんなこの日、この時を、これからも忘れず大切にしていきたい。

 智代と一緒に。

 

 

 

 

 

FIN

 

 

 

 

〜あとがき〜

 明日朝が早いのに熱中して夜中まで書いてしまいましたorz

 といっても何だかんだで早く書き終わったので、良かったです←

 新しいPC、使いやすいですww

 

 

 

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